『信長のシェフ(原作コミック)』惚れた。人間としての信長を異色の視点から描いた意欲作!!
もう、全然前知識もなにもなく、いわゆる“背表紙”ちうかタイトルでググッと惹かれた作品でしたが、読み始めて数ページでハマリ込んでいく自分がわかりましたね。
ヽ(´∀`*)ノ ぶっちゃけ、私好みなんですよ。ていねいな絵もシチュエーションも展開も。
もうね、タイトルからして中味バレバレなんですよね。
『信長』ときて『シェフ』です。『料理人』でない時点で、ははあ、なんかヒネリありそう…
もしや?と思った通り、これは村上もとか先生の『仁ーJINー』やかわぐちかいじ先生の『ジパング』みたいなタイムスリップもの。いや、ネタバレでも何でもないです。なんせ7ページ目で判ってしまいますから堂々としたもんです。
理由は判らないけど、はるか戦国時代へタイムスリップした主人公は怪我のためか、知識と智恵こそ人並み外れたものを持っているものの、自身のコトに関する記憶が一切ない。
そんな彼を救ったのが、夏と名乗る若者───なんですが、この夏という名前からも判るように、男装の“美?”少女。
一人称が“俺”で服装も男物を着ていますが、最初からどこかチャーミングなんで、この設定もすぐにそれと判る。
ある意味すごいな、と思ったのがこの辺で、あえてミエミエの部分はさっさと暴露してしまって、お話の内容へ核心へと読者をひっぱっていってしまう牽引力でした。
さらけ出してしまってる事でむしろ“突っ込む隙がない”、といいましょうか。
見せ場になっているのはやはり主人公である“ケン”の、未来人ならではの知識の豊富さ。
しかしなんといっても、未来人だから戦国との文化ギャップに悩む…という“お定まり”をほとんどすっ飛ばしているところ。
せやかてね、タイムスリップものですよ。
石ころ一個もちこんでも歴史変わるかもしれんのですよ。
コケた人に手を貸したことで死ぬべき人が死なず、生きてスゴいことするはずの人があっけなく死んでしまう、それがタイムパラドックスちうもんなのに、ケンと来たら、この時代にない技術でどんどん美味しいモンを作っていくし、それで歴史上の重要人物にも感動を呼んだりするし。
ちょっと待て、それ現代にどんな影響が出るか考えてるか!? 絶対ヤバイやろ、というツッコミを入れたくなるほど。
従来の話の建て方で行けば、ここでちょっとした笑いの要素も散りばめられるし、不注意であわや史実が変わってしまう、ヤバイヤバイ…でスリリングな展開も望めるわけです。
ところがこの作品、NHKの人気番組『タイムハンター』のように、「そうか、まだこの時代には醤油がないのか…なら誰も未体験の味の筈」などとごくごく冷静に観察分析してるシーンも多々あり、あくまで現代の一流料理人としての視点を保持している。
そんな時間の風来坊であるケンとは真逆が、存在自体が歴史そのものというこの御方。
織田上総之助信長(おだ かずさのすけ のぶなが)その人です。
一巻の半ばで登場してきますが、あれ?(゚ε゜;)意外な…というのが正直な感想でした。
正直言えば、がっかりしたと言えます。この作品を描いてる作家さんの画力からすると、ずいぶんフツーな容貌で描かれてたもので…。しかし。
私の中では日本史最高にして最大のキャラクターで、歴史上の人物で私が最も大好きな人物であり、尊敬すらしています。
Σ(;´д`;)え、宮本武蔵ですか?いあ、あちらは実在ではありましたが、なかばフィクションなので歴史上と言うにはチト問題ありすぎですからね…
───てな具合に御大将に惚れ込んでる歴史ファン、戦国ファンは星の数ほどいるワケでして、それはとりもなおさず、ヘタな信長像を描いてしまうと急速に物語が魅力を失って、お話そのものが瓦解してしまうという諸刃の剣キャラでもありますね。
いい例がNHKの大河ドラマ。戦国が舞台の場合、信長の魅力次第で物語が生きるか死ぬかが決まると言ってもいい。
ましてこの『信長のシェフ』の主人公・ケンは無口気味で、どこかボーッとした印象なのにいざ包丁を振るうと、文字通り戦闘モードに変身したかのように次々と戦国日本を揺るがすような料理を生み出してゆくんですが、奇想天外な発想力と折れない心の持ち主という意味では、信長と対をなしているという描き方。
ちなみにパッと思い当たる『信長』で比べると、工藤かずや&池上遼一版『信長』では心ここに有らず的な無限展望系のカリスマ型、実写俳優で言えば萬屋錦之介氏、『へうげもの』の信長は一種の狂人的な部分が強調された野獣的天才系、実写俳優で言えば役所広司氏に思えます。
右端は今の『信長の野望』での信長公。まあ大体、このへんの路線ですかね。(ちなみに『BASARA』は問題外)
ではこの『信長のシェフ』での彼は───?
“人間”───そう、とてつもなくでっかい夢と野望とその実行力を持ってはいても、普通の人間を描こうとしてるように思えてなりません。
だから先に表現したような、普通っぽい見た目…つまりわざと、意図あっての描き方なのかも知れないと思えてきました。
話中、ケンも「おそろしいのかやさしいのかわからない人だ」とつぶやきます。
これまでは、先の池上版『信長』も『へうげもの』も、最後まで誰にも理解されない信長、衆愚を超越した存在のままこの世を去る。それがたいていの信長の描かれ方。
ところが今作に於いては、少しずつではあるけど、信長を心底理解できるのは、唯一ケンだけかもしれないというスタンスが見て取れるようになってきました。
いわば、ふたりの魅力あふれる男の生き様、あるいは死に様を描いていこうという作品に見える。
こうした信長の描き方は実に斬新。
司馬遼太郎先生亡き後、歴史上の人物を型にはめずに“理解してみよう”とするアプローチはマンガにしかできないのかも知れない。ああ、なんて魅力ある挑戦。もう、たまりませんね。
2012年6月現在で4巻まで刊行中。はたして信長が果てるまで続くのか、それとも───?
いずれにせよ続刊が楽しみでならない作品がまたひとつ増えました。
ヽ(´∀`*)ノ ほな、また。
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