『大砲とスタンプ』いぶし銀の渋さが光る新時代の戦争コメディ
一昨日がいわゆる“エイプリル・フール”やったわけですが、この作品は作者いわく『ミリタリー法螺まんが』ということで実にタイムリー?なんかしら?
ぶっちゃけた話、地味ぃ〜な作品です。(≧∀≦) でも読んでいてすごく愉しい。
ただし、大爆笑するとか、ドキドキさせられる部類の単純な“楽しさ”とは違て、もっともっとディープで、ニッチで、マニアックなオトナのマインドを持った人がニタニタ、ニタニタする漫画の登場です。
もぉね、完全に“趣味の世界”。といっても描き手だけのひとりよがりな趣向という意味ではなく、ホビーという意味の趣味。
それもかつて少年の頃、朝から晩…いや、親に隠れて深夜にまで模型工作の作業と、そのための資料本───それも実年齢からは完全に背伸びした内容の───を読みふけっては、いつしか空想世界で無限の想像力で遊びまくった日々を送った人なら、懐かしさとワクワク感で胸一杯になってしまう、あの趣味の世界。
───そしてハッと気付くと歳月とともに、妙にニッチな業界の専門知識と史実のマニアになってしもてて。
物語は、どこかの大陸に覇を唱えるロシア語らしき言語を公用語とする『大公国』と『帝国』の北側の同盟軍と、対する南側で別言語圏の『共和国軍』との戦争状態にある世界で、“兵站(へいたん)軍”と呼ばれる、いわゆる物資輸送や財務などの“裏方”をうけもつ“第四の軍”でひとり張り切る女性将校、マルチナ・M・マルコフスカヤ少尉の日々を描くという、ちょっと風変わりなもの。
同じ軍人でも、前線に出ることなく生命を賭けることもない彼らは、陸海空の三軍からは「紙の兵隊」と蔑まれているという状況設定。
かつて豊臣秀吉の朝鮮侵略遠征の際に、実戦実行軍である加藤清正や福島正則らと同期とも言える子飼いの武将でありながら、その頭脳の明晰さゆえに、もっぱらその日本史上未曾有の大量兵站輸送の事務処理に辣腕を振るった石田三成の立場ですね。
そういう立場から戦争を描いた話は、私の記憶や知識にはありません。
まして戦争コメディという切り口も珍しい。
実際の事を言えば、戦争などという、生命と物資と時間のロクでもない浪費行為は悲劇以外の何ものでもないんですが、これ以下がないほど愚かしすぎるにもかかわらず、人類発祥以来耐えた事がないという事実にはもう、苦笑するしかないんですね。
戦争コメディというのはそういう皮肉から生まれたジャンル。
その名作で私の好きな作品としては『ミスタァ・ロバーツ』や『M★A★S★H マッシュ』(いずれも《よろ川長TOMのオススメ座CINEMA》にてご紹介)がまず挙げられますが、いずれも哀しくて可笑しいんですね。
そしてなんといってもこの『大砲とスタンプ』の魅力の一面は、さまざまな架空の“新兵器”が登場するところ。
しかもそのどれもが役に立つのか立たんのか、なんでそんな企画が通ったのかさえ首をかしげるようなものばかり。
でも実際にあったふたつの大戦の兵器に詳しいヒトなら、そんなのが世界中にいっぱい存在した事を知ってますので、最初にこの漫画が架空であると断ってなかったら「え?ソ連にそんなん、あったん?」と信じてしまいそうな“妙なリアリティ”がある。
じつは私自身は、数行のざっとした紹介コピーだけでOnネット衝動買いしたんですが、大正解の作品でしたねえ。
まるまっこくて人なつこさのある絵柄は、昭和の漫画と言っても通じそうなタッチなので、お話にすごくマッチしてるというのもありますが、最初っから堂々の登場となる様々な兵器の説明図を観たとたん───
( ̄▽ ̄*) うあ〜〜。あの人がごっつ好きそうな……
あの人とは、宮崎 駿監督のこと。
たぶんこの作者さん、速水螺旋人(はやみ らせんじん)さんも少なからず影響受けてないはずはないと思うんですが、なにも宮崎監督を始祖とするまでもなく、宮崎監督でさえ幼い頃からこういった『兵器の図解絵』は雑誌にわんさか掲載されたし、私みたいにメカが苦手な者…いや、漫画家志望とはまったく無縁な人でさえも、昔のノートを引っ張り出せば数点見いだせるほどに、誰でも一度や二度は描いてるものなんですよね。
またこの解説図が、プラモデル・パッケージの箱の横に書いてある兵器の説明文を観ているノリなんで、すみずみまで読んでしまう───しかし。
これまた奇妙な話ですが。
大砲もミサイルも、物を壊し敵となった人間を殺すためにだけ存在するもの。
戦争に正義などない。ヒトが決めた神様はみな「人を殺すな」と教えてるのに実際には殺しまくる。武器はその為だけに存在し作られる最悪の道具。
でも、武器はたしかにかっこいい。戦艦、戦闘機、戦車、今の子どもたちならガンダムあたり。
だけど何をどう飾ろうと、誤魔化そうと、どれも人殺しの道具であることは揺るぎませんね。この矛盾自体をあざ嗤(わら)うのが、戦争コメディの役目であり、キモなのです。
戦争のふたつの最大の皮肉は何か?
それは、殺しあうために人が出逢う事と、壊すために兵器を生み出す事。
そこまでは言及してませんが、人殺しの戦争をするための手助けをするのが『兵站軍』の役目。
おとぼけやズッコケをどんなに明るく描いても、常に死が背中合わせにある事で異様な緊張感を孕んだまま、お話が進むのが戦争コメディの異様さなんですが、この『大砲とスタンプ』も同様で、まるまっこい絵で、どこか呑気そうで、戦闘シーンでもまるで“ごっこ”のようなタッチや展開なのに、“そのシーン”があると「あ。やっぱりこのお話でも人は死ぬのか」とむしろショックが大きいのは驚きです。
さらに、兵站軍の“事務処理”の役目として、死んだ兵士の書類上のあと始末───棺桶の手配のくだりなども描かれていて、けしてメカ好きだけで戦争をテーマに選んだ薄っぺらい作品ではありませんね。
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巻数が進めば、主人公マルチナもそこらへんを悩み出すのかも知れませんが、いまは次から次へと登場する魅力的なメカを愉しみ、これまた次から次へと登場するアホウな“国のお偉いさんたち”に苦笑いするとしましょう。
ほんまに深いですよ、この『大砲とスタンプ』は。きっと遠からずアニメ化の声がかかるでしょう。
その時はよほどの腕前のプロダクションと監督でないと、観客までほんまのテーマは伝わらんでしょうなあ。
いいスタッフに恵まれますように。(私の中ではもうアニメ化の予感ぶりばり。)
(´。`)ノ ほな、また。
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