神戸でゲージュツに触れる。その3〜オールドノリタケ展〜Aパート
骨董品としては興味ないんですが、工芸品は大好きなワタクシなので、神戸にゆく目当てのひとつが美術ギャラリー(入館料不要のに限るんですが)めぐり。
で、必ず訪れるのが麗しの『神戸大丸』7Fにある美術画廊。
8月13日に訪れた時にここで開かれてたのが表題の『オールド・ノリタケ展』。
私はここでものすごいショックと感銘を受けました。
上のDMに採用されたガッツポーズのクリオネ(違うけど)もそのうちの一点なのですが、私がぶっとんだのはこの造形のためではありません。
今回の展示は約100点、こうした変わり種から一般的な紅茶カップ、ショコラカップのセット、飾り皿、花瓶などなど多岐に渡っていましたが、いずれも明治24年(1891年)頃から大正7年(1918年)頃にかけてのものが主なのに、まるで最近作られたかのように美しい。
これまでご存じ『なんでも鑑定団』で『オールド・ノリタケ』が登場して見事とか美しいとか言われても、所詮はテレビの画面の向こう、ましてハイビジョンでもなかったんで単なる骨董品、古道具という認識しか持ってませんでした。
もちろん、見事な工芸品としてその職人芸には感動しますんで、大阪でもどこでも百貨店に行くと必ず高級食器のコーナーは訪れるほど大好き。
しかし、『ノリタケ』も『たち吉』や『香蘭社』みたいな、ハイソ系の上品で美しい食器を作ってる日本を代表するメーカーや、という認識はありましたけど、単純に『リヤドロ』や『ウェッジウッド』『マイセン』みたいに“ごっつ値段のたっかい食器”程度の捉え方しかしてませんでした。
つまりいくら優れた職人の業とはいえ、大量生産であるからには特殊工具や器具を使ってある程度は効率化を図っているだろうと思うからです。でなければ同じものを何百、何千とは作れないから。
知らんっちうのは恐ろしいもんです。
その条件も、100年前となるとガラリと意味が変わってくる。
ガッツ・クリオネを例にとって説明しましょう。
実際に飾られていたものを撮影するわけにはイカンので、DMのアップでお茶を濁しますが、“胸部分”にあるのはダリヤの花。
描いてあるのではありません。花びらの一枚一枚が立体的なレリーフ状になっているんです。
さらに刮目すべきは、周りを彩る白いドットや唐草文様。
ひとつひとつ、職人の手で点描されているのです。それも、デコレーションケーキのように立体的になっています。
しかしそれだけなら「ふーん、凝ってるねんね」で終わってしまいますが、考慮すべきは作られた年代が明治24年であること。作ったのが無名の職人さんであること。
失礼ながら、おそらくこれを作った職人さんはダリヤなんて観たことも聴いたこともなかったはず。
まして西洋陶器なんか仕事でしかお目にかかったことがない階層のはず。
ならば、なぜこんなデザインが出来るのか?
それは、ノリタケに依頼した主なクライアントがアメリカだったから。
1918年と言えば第一次大戦が終結した年で、まさに戦時需要景気で世界で唯一、無傷なままガッポリ儲けたアメリカが、日本の高い技術力(というか職人芸)と安い労働力に目を付けて、自国やヨーロッパの富裕層に向けて、こうした“ちょっとリッチな生活雑貨”の大量発注をしてきたんですね。
その制作にあたり、微に入り細に入り描き込まれた緻密極まりないデザインの“指示書”が送られてくる。もちろんそれを描いたのも無名の職人。
当然、もとの絵は平面。いちおう完成予想として表裏くらいはあるけど、俯瞰図みたいな描き方はされてなくて。で、色使いはあるし金の部分はしっかり金で描いてあるけど、それを焼き物として同じ色を再現するのは日本の職人芸。
さらに焼き物、それも高温で絵付けの度に焼き直す白磁なので、焼く度に大きさも微妙に縮んだり変形したり時には割れるし、絵付け時と焼き上がり時に色が指示書のようになるとは限らない。
でも当時船便だけでも数ヶ月費やす時代に「これは無理」とも言えず、さらに同じものを数十、ときに数百個のセットで注文してくるわけで、それをひとつひとつ職人の業と忍耐で注文通りのものを納期に間に合わせて納品してたわけです。
なにが凄いって…元絵を描いた人も無名、陶工さんも無名、たぶん給金の差こそあっても、いずれもそれぞれの国ではおそらくは下級と呼ばれる階層の人たち。
こと日本に至ってはローティーンの頃から弟子とか丁稚のレベルで修行を始めたってノリなんですよ。
イマドキの若い人はちょっとしたスゴ技を見てよく『神!』なんて軽々しく使いますけどね、この技を見て、この事実を考え合わせた時、言えませんて。そんな事。
さて次回はそんなホンマモンの神業をいくつかご紹介しますね。
《Bパート》へ続く。
*ちなみに神戸大丸での『オールド・ノリタケ展』は8月16日まで。
われこそはと思われる方はぜひ実際に行って実物を超近接距離の絶対領域をご覧戴くことをオススメします。
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