『けいおん!!』あなたは既に何度も最終回を観ている。
いよいよ最終回が近づいてきましたね。さてタイトルのケンシ◯ウ風『あなたは既に何度も最終回を観ている。』ですが、何を今さら、みたいな?
ここまで来るとお気づきの方も多いはず。そうです、第二期の二部に入ってからのこのオープニング。これ、全部最終回要素なんですよね。今時な言い方だと“フラグ立ってる”って言うんでしょうか。
だから我々は、放送的には次なる最終回に向けてずっとずっとそのハイライトシーンを観てきたようなもので…てことで。今回もクドクド、画像バンバンで解析させていただきます!
ギンギンの明朗なロックテイストだし、平沢唯@豊崎愛生さんが明るい声で元気いっぱいに唄ってくれてる楽しい楽しい導入部ではあるけど、じつは歌詞自体、「大好き、大好き、大好きをありがとう。歌うよ、歌うよ、愛を込めて歌うよ♪」と泣かせるバラードであってもなんら不思議でない、涙、涙の感謝祭…的な内容。
時にはテーブルかどこかに適当にビデオカメラを置いての撮影、または誰かが手持ちで撮影(そこに映っていないキャラクターがカメラマンですな)しているかのような画面レイアウトは、ネームプレートを持っての撮影、ひとりひとりの演奏場面、“放課後ティータイム”全員揃ってのお茶目なダンスやジェスチャーの数々と、何気ないようで実はひとーつひとつ、とんでもなく高度な演出がなされている。
京都アニメーションのこれまでの技術からすれば、これだけ高度な作画であっても、良くも悪くもファンはもう慣れっこになってしまってて、楽しくてムードや臨場感のある愉快なオープニングだと純粋に楽しんでしまうし、実際、二期・二部に入ってから毎回毎回、ワクワクしながらこのあとに始まる『けいおん』タイムを心待ちにしてたわけです。しかし。
よぉく考えてみればこれ、どれもこれも、おそらくは『軽音部・最後の記念撮影』なんですね。
もちろん卒業してしまえば制服着ての登校はないし、たぶん時間的な位置づけとしては23話の時点で既に過ぎてしまってるんでしょう。
もしかしたら一人残った梓が、残された寂しさに涙流しながら自宅で観てるのかもしれない。逆に、女子大生になった彼女らHTTが高校時代を懐かしんで観てるのかも知れない。
邪推すれば、すでに唯たちは同じ大学に受かったわけですし、エンディング曲の『No Thank You』でのブレザー姿も、HTTのワッペンがあるので衣装なのかも知れませんが、私立の女子大の制服に見えなくもない。
けど、それもこれも『言わぬが花』。けど、これは本当に難しい。
『けいおん』は始まった当初から、何もかもを描ききる、ということをせず、小説やエッセーのように、アニメでありながら『行間』をすごく大切にした演出で魅了してくれましたね。
言い方を変えれば、欄外というか、あとがきというか、観客の側である程度、予測や想像で彼女たちの見えない部分を憶測と妄想で補わせるという、日常を描いた物語としては、とんでもなく高等な演出技法を駆使した、まるで物語演出の教科書みたいな作品だと言えます。
作り手的な立場で話を考えると、説明したくなるんですよ、ぶっちゃけた話を、それもコマゴマと。
実際もそうであるように、人間ちうのはこうこう、こういう生い立ちで、こんな生活してるから、こうなってきたんですよ、という因果関係ありきですよね。
だからこそ、それに根ざしたいろんなエピソードやら、そのキャラならではの性格やら反応があるわけです。
サスペンスや推理ものなら、それを紐解かせたいが故に話を組み立て、ヒントとなる布石を置く。
ところが『けいおん』のような、“なんでもない話”をえんえんと描くのには、そこを説明しないと普通は話にならんのですよ。NHKの朝の連続ドラマがそうであるように、人物関係ありき、またその絡みや出逢いのキッカケと展開こそが、日常を描いた物語の持って行き方のセオリーだからです。
これが映画だとちょっと変わってきます。観客は基本的に画面に食い入って観てますから、登場人物たちのちょっとした仕草や、小道具に込められた『謎』に気づくだけの余裕も注意力もある。
なので目線の配り方や微妙な表情にこそ役者の見せ場もあるというもんです。
でもドラマとか連続もののアニメでは、そうした事をスルーされる危険性の方が高いんですね。鑑賞は用事しながらだったりするし、そこまで注意して観て貰えるかどうかは期待できないからです。
もちろん、こうした演出は『けいおん』が初めてではありません。
作品中ではほとんど語られないけど、あえて言わない部分も実はしっかり作り込んであって、じっくり腰を据えて観る人にはしっかりと浮き彫りになって見えてくる、なんて傑作が。
『母をたずねて三千里』などはその好例で、原作のたった数頁のお話を、当時のスタッフたちが寄ってたかって当時の風俗やら生活、国際情勢までを丹念に調べ上げながら考慮に入れつつ、あれだけの物語に練り上げ、組み上げたものなのです。
実際に作品を観てみると、南米に出稼ぎに渡った母親を追って幼い少年マルコが一人旅に出て、人との出逢いの中で生長してゆく…という、すごくシンプルな筋立てですが、実は角度を変えて観ると色々見えてくる。───まあこれはまた別な話。
『けいおん』だけに限れば、ムギを始めとするメンバー各家庭の事情というか生活環境などなど、約一年弱の物語の中で、少なくとも彼女らのクラスメート程度には、彼女らのプライベートまでは推し量れてますよね。
この距離感のバランス、さじ加減が見事なんですよ。本人たちが知り得ない事は、私ら観客もとうとう最後まで知らないまま。
こんな作品は他にない。
たいていの作品では、観客は本人よりも知っているんです、いろんな事を。逆に、主人公が何かを知ってゆく時は、むしろ必要以上に事実は知らされないままで、指をくわえて主人公の行く末を見守る。
もちろん時間軸と共に話が進む鉄壁のルールは同じですが、少し違うのは、作者が時間の流れも含めて結果を作為的に伏せているのか、それとも同じ作為的であるとしても、物語の中で時間が経てばおのずから知れる事なのか、という違い。
後者はつまり、私たちが普通に生きていて、時と共に訪れる物事の結果と同じ流れなのです。
なので、唯たちは私らが観ている、生きている時間軸を同じように生きていると言えます。もちろん、季節や時間は多少ジャンプするけど、それは写真のアルバムやビデオを観てるのと同じ程度のアナログ感覚。
だから、我々は観客という神様ではなく、いつまでもHTTのファンで、彼女たちとは心のクラスメートで居られる。この事も『けいおん』が他の作品と異なる親近感と空気感を持つに至った理由でもある。
そんな風に観てゆくと、オープニングだけでももぉ涙なしには見られなくなってきますが、ところがギッチョン、あくまで京都アニメーションはエンターテインメントのクリエーターであり、職人集団なんですね。
▲この教室内でのノリノリライブ。
これもお気づきでしょうか、三度もこの場面が出てきますが、最初はライブの始まりと歌い出しで、あとになるほど、観客の生徒たちがどんどん盛り上がり、三度目にはついに唯と同じようにみんながクルクル回り出し、そのあまりな熱狂ぶりに、ムギがびっくりする様子まで描かれている。
一般的なアニメなら、これらのカットがそのまま埋め込まれた…というか、そのまんま膨らませたシーンを使って、まるまる1話作りあげてしまうんですが、言うなればこのオープニングは、他のアニメでDVDにオマケで入ってるところの『サービスアニメ』なんでしょうなあ。
主題歌と共に繰り返し繰り返し、あらためて観てご覧なさい。
カットごとに、そのカットに写っていないこちら側、あちら側、そしてそれを撮ってる時の部室の様子までちゃんと見えてくる。想像がつく。ほら、どうです?
唯がどんな顔でカメラ構えてるか。律が何をたくらんでるか。梓がどれだけ困ってるか。澪がハラハラしてるか、ムギがにこにこワクワクしてるか。
ぜんぶ、ぜーんぶ、見えるでしょう?
全てのカットに、スタッフからの『愛』が込められてることが。
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コメント
催促したみたいですみません(;´Д`)
今回も読みごたえありました。
OPのムギが驚いてるのは全然気付いてませんでした。
唯がニッコリするとこばっかり見てたもんでwww
あー最終回が早く見たいような見たくないような…
投稿: ToTo | 2010.09.12 00:56
初めてコメントします(って、ここではですが)
ランダムになってすいません。
ラス前のこの回、気負いなく、実にたんたんと卒業式の前の日を描いてましたね。
卒業前日の回で、悲しむ表情がない描写って、創作ではやりたくても出来ない演出ですよね。
以下、気がついたところ。
・アバンでは髪飾りを外した唯。たぶん見てる人の殆どは第1シリーズの憂の代行や、修学旅行の朝の準備などを思い出して、また、憂か?と思ったはず。
前の週の「卒業写真」で、あれだけ髪飾りをアピールしてたのが逆伏線(?)になってる、という構造。
・opは、お別れ会ライブとかの振り付けを研究してるシーンなのかな。紬は唯一の持ちネタ・マンボウを律に止められてる風景
最後に階段でジャンケン登りしてるとこ。唯がトップで、紬は1回も勝ってません。唯と梓がパー、律と澪がグー、紬だけがチョキ
・Aパートは、ポッキー早食い競争、さっそく食いつく紬。糸目の律・澪
そして3時間目のチャイム(音的伏線)。 直後に入った蕾の絵の柔らかさで季節を感じてもらう。春が近い。
・斜め角度でなく、真正面からの落書きホワイトボード、これは最終シーンの伏線。
薄汚れたシンク(絵的伏線)なのに、蛇口だけが異常にピカピカ(ホームセンターで紬が買ってきた研磨剤のおかげ)
唯が机のなかから引っ張り出したのは、部活の申請用紙。ここで視聴者は、けいおん部設立時のエピソードを思い出すはず。で、スゴロクの台紙にしちゃうこだわりのない唯。唯らしいと言えるし、回想をあえて誘導しない演出。
・3-2の教室:回覧のメモ「それ、みんな私欲しい」と言う紬
思えば常に思い出作りに異様な執念を燃やしてきた紬
きっと、早晩、みんなとは同じ生活ができないことを確信しているのかな。一緒の大学に行くけど、皆に流されずに英国あたりに留学するのかも。何かあると思いませんか。
・生徒会室:ほんの少しだけど、和の感慨なんかも垣間みせてくれた。澪FCコンサートなど、和ちゃんもここでいろいろ思い出したよね。
・再び部室:ゴールデンチョコパン、これも修学旅行の裏で出た小道具。卒業までに1度食べたかったんだ、のセリフも一瞬でスルー
・掃除で、輝くシンク、そしてここで放課後のチャイム(音的伏線回収)沈黙。4人それぞれの半分のカット。「放課後だー」という唯の声が沈黙を破る、しかし、ここで4人の顔を移さず背中からの絵だけで進行。表情が見えない演出。
うろたえる唯を抑える紬。この前後の紬は終始冷静に見えるのもポイント。
・「音を残そう」出してきたのは、SONY Studio1980-mark-II.ミキシングできるラジカセの最右翼だ。どこの音楽系の部室には必ずあったはず。
第1シリーズから連綿とつづいているカセットテープのアイキャッチの伏線回収をついにここで(なんて長い前フリ)。(実際は、さわちゃん現役時のカセット登場もあるけど)
・ピンクのカセットテープで再現される眩しいくらいの高校時代。何年かあとで、テープを聞きながら昔を思い出している誰か(全員かも)、というメタな風景を容易に想像してしまう。
唯の「音楽性」って発言に喜ぶ梓。これもメルクマルかな。
・ラジカセを目にしてパッとひらめく紬
「この時間も録音しておかない?」 思い出作りに以上な情熱を燃やす紬。おなじ大学に行くことが決定しているのにもかかわらずだ。それだけにその原因をついつい想像せざるを得ない。
ここでも、山田監督が好きそうな小技。RECボタン1つだけを押して押しきれず、再生との同時押しでやっと録音。紬に空振りさせる演出は、ギター運びジャンケンなどでも登場。(※手のひらを組んで出目を見るしぐさの時の左右組み換え)
・曲名リストの右端の黒いモジャモジャ、よく見るとHTTの飾り文字にみえる。
唯のマフラーのぼんぼりに顔がある。これ憂のプレゼント交換品だったかなあ。これもエピソードの回想惹起小道具
・タブーなトイレネタは何の意味なのか、今は不明。
・ラジカセの周波数は、77.2MHzあたりを指示。ワイヤレスマイクに合わせたものかな。
・部室にやってくる顧問:さわちゃんの笑みを深読みしたい。自分の時も同じく録音してて、校内放送の音、入ったっけー、とか。
「録音手伝おうか」と聞いたのも、きっと自分たちでやりたい、と答えさせたくて、その答えを耳にしたくて。
・ラジカセのアップでは、確かにVUメーターが触れて欲しかったけど、内蔵マイクだと殆ど振れないんだよね。バッテリーメータと兼用なので電池残量モードなのだろうね。
ラジカセの背面の形名シールも正確に再現。
ピンクにライム色のシールのカセットは、みなさん、もうおなじみ。
・ラストシーンは、真っ白なホワイトボード(絵的伏線回収) 初めてのシーンかもしれない。これをズームアウトしながら10秒継続。
・CM:関東圏の場合、男性向けボディーソープのCMも入る。
この番組の客層がどこにあるか、こんなところで透けて見えたりする。
・次回予告:語りなしBGMのみ。「最終回 卒業式!」
けいおん部のメンバー、予告シーンに1人も出てきません。びっくり箱仕立て。
誰もいない部室、誰もいない廊下、花束を持って手を振り合う生徒と母親、夕暮れの校舎前。
とにかく、今まで出てきた様々な要素が積み重なって、印象的に再利用されている感じ。しつこくクーラーが見える構図とか、トンちゃんが四六時中、動いてて、窓に黒い紙が貼ってるのが外からも分かる、とか。
動きのきっかけを作るのは律。今日も律の号令で投稿とあいなった。来てからは当然、唯が引き回す。
いつもながら、紬の動きから目が離せない。唯をロールモデルにしてどんどんグダーっとして、カジュアルになってきてる。もう、学園祭以降はタメ口か体言止めだ。以心伝心。
以上、目についたところを勝手に列挙しました。
投稿: genwat | 2010.09.14 08:28
*genwatさん、ブログでははじめまして&Twitterではお世話になってます!
( ̄ロ ̄lll) しかし…私もたいがいクドイし文章長いですが、こんな長いコメントはネット生活20年で初めてですよ…
*ToToさん、そのせつはどうもです!
いや、おかげでこれだけの記事をイッキに描きたくなるだけのエナジーを戴けました。
むしろ感謝です。
オープニング、エンディングに限らず、今の高度なアニメは、上質であるほど全てのキャラがちゃんと生きてて演技してるんですよね。ふつうに実写の映画でもエキストラにまで気を使う作品はめったにないです。
投稿: よろづ屋TOM | 2010.09.16 13:50
いやー、文字爆弾投下逃げ、という形で失礼しました。
opは卒業記念録画で、タイトルとインターミッションのカセットテープも思い出の録音なわけで、
とすれば、ご指摘通り、このk-on!!って、
それらを再生してる誰かと一緒に
過去の青春のリプレイを楽しんでる、っていう
メタな感じの設定なんでしょうね。
涙と過去の振り返りは、学園祭終了後の部室の全員の泣き顔で済ましてて、
卒業式は、
卒業式だって今までの毎日と全く変わらない日常なんだよ、ってことを
実に強く印象づけさせるお話でしたね。
主役はあの4人でなく、梓と実はさわちゃんも、かな。とも思わせる丁寧な演出でした。
(しかし、最終回に、主人公以外の2人がメインになる、なんて作品、他にはないんじゃないかな)
今回の大注目は、
誰もいなくなった教室で、
つくえの上を、つーっと指をすべらせながら歩くさわちゃん。
そして、部室のまえで、手すりにあごをついて、
足首を組んで物思う さわちゃん、
この2シーンでした。
投稿: genwat | 2010.09.19 02:55
genwatさん、毎度です!
爆弾は爆弾でもクラスター爆弾でしたねー。( ̄▽ ̄lll)
まあ、これに関するコメント返しはまた記事にて…て、気力続くかしら。まあ番組終了後もとーぶん熱も続くでしょうしね。
投稿: よろづ屋TOM | 2010.09.21 01:04