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2010.07.06

『けいおん』に観る、染み入るような叙情感覚のヒミツ。

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 エエ歳したオトナが『けいおん』を観てると、時折染み入るように懐かしいシーンやカットにお目に掛かります。
 だけどそれらは、その年代が懐かしむような昔の風景を選んで描いているわけでもなければ、京都ロケらしくそれっぽいアンティークな光景を選んで演出しているわけではない。なのに、観ていて思わず心の琴線に触れてくる何かがある。
 なんででしょうね?今回はこのことをクドクドと掘り下げてみたいと思います。
 

 そのヒントはこれ。

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 ええ、上の画像をモノクロにしただけです。ほんとは背景があればよく解るんですが、これだけでもかなりイメージが変わるように思いませんか?

 単にノスタルジックな絵づくりならこれまでのアニメでもありました。
『トトロ』や『千と千尋〜』などで宮崎 駿さんが描く世界観を思い出される方も多いでしょう。先月公開になった『宇宙ショーへようこそ』でもそうしたシーンが登場します。

 しかし、これらの絵づくりのほとんどはいわば風景画が観客にアピールするのに似たノスタルジックさなんですね。絵そのものがテーマを持っているんです。
 つまり、風景が映し出されているときは風景そのものが主役。風景を見せたいが為にそういうシーンを必要とし、描かれている。
 ススワタリのシーン、オタマジャクシのシーン、庭の迷路のシーン。どれも風景が主役で、メイたちはあくまでそれに対して反応するゲストの扱い。

 とはいえ、これが普通な作り方な筈なのです。

 たいていの場合、どんな映画、どんなマンガでも、風景を描くときは主人公たちの居場所や時間経過など、なんらかの説明をする必要があって挟み込む。挟み込むからにはあえて解りやすいように演出するし、逆に言えば単なる背景で済む場合は登場人物の邪魔にならないように控え目に描くか、場合によってはアウトフォーカスにしたりアオリで撮って空だけにしたり。

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 ところが京都アニメーションの『CLANNAD(クラナド)』や『けいおん』では、どんなに風景がリアルでも美しくても、あくまで風景は物語の中の単なるワンカット、ワンシーンでしかない扱い方なんです。しかも物語の中でそうした扱いがほとんど。
『ハルヒ』でもそうですが、関西の人間にとってはよく知ってる風景がまま登場します。『けいおん』に至っては、京都ローカルシーンのファンならあまりにもまんまで面食らったりします。
 なのに、リアルであればあるほど、唯たち主人公の実在感が増すという不思議。

 それについてTwitterで、私と似た年頃の男性とけいおんの魅力について話していたとき、ふと気づいた事があります。

 私ら“リーチ・ザ・フィフティ”や少し下の“アラフォー”世代が二十代だった頃、『生録(なまろく)ブーム』てのがありましてね。
 ようするに、それまではプロのものだった高性能な野外録音機材がアマチュアでも手に入って扱えるようになり、いうなればステレオで雑音を録音する事が流行ったんです。
 当時絶滅寸前のSLの走行音、ジェット機の爆音、野鳥のさえずりや虫の音から交差点の雑踏、街角の子どもたちの笑い声などなど。そうした機材のテレビCMでは、早朝にボートに乗り込んで蓮池で蓮の花が開く音を録る…なんてシーンを演出してました。
 なにを酔狂な、と思われるかも知れませんが、いわば『音のスケッチ』なんですね。

 今では携帯で動画が撮影でき、現像も焼き付けも不要でデジカメで手軽に写真を撮れる時代ですが、その頃の写真てのは一枚一枚、撮影のひとコマひとコマに意味を込めたんですよ、コストが高いから。
 今でも写真の基本はモノクローム。
 味わいもさることながら、実は撮影はもちろん、いい感じに仕上げるのもイメージ通りに焼き付けるのもかなりの難度で、同時に最もカメラマンにとって表現の幅があるのが白黒写真なのです。
 生録の楽しみ方も同じコンセプト。要は、情緒のスケッチだったんですね。
 その事で『けいおん』の情緒はそうしたスケッチ感覚から来てるのではないか、と思い当たった。

 そこで、『けいおん!! 第13話:残暑見舞い!』から少しそれっぽいカットをモノクロにしてみましたんですよ。するとほら、さっきの憂と梓のシーンなどはご覧の通り。

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 いかがでしょうか。構図といい、雰囲気といい、カラーとは違ったものすごく味わいのある画面である事がお分かりでしょうか?
 画面が小さくて伝わりにくいかも知れませんが、まるで一流どころの写真家が、街や生活の風景を切り取って写真集にしたものから抜粋したが如く、光の回り方や空気感など、なんとも季節感を主張した風情ある写真である事が解ります。
 ねえ、どっかの写真集や展覧会でこういう雰囲気のものをご覧になった事、ありませんか?

 絵を勉強している人も、映画や演出を勉強している人も、これってものすごい参考になると思うのです。
 これもそう。たかがおみやげのフルーツゼリーをここまで美しく描いた画像が、アニメはもちろんの事、映画でもはたしてあったかどうか。小津安二郎大先生でもうーんと唸ると思うのです。

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▲クリックでカラー版がポップアップします。見比べてみてください。

 そう、『けいおん』情緒のもうひとつのキーワード、それは『シズル感』の存在。

 なんぢゃそら、と思われるかも知れませんが、広告用語です。難しい話ではなく、古くは焼鳥屋やうなぎ屋さんがネタを焼いてる香りがあたりに充満するのもシズル感なら、風鈴の音や風になびく小さな『氷』の旗もそう。
 要するに意図的に創られた画面や文章から特定の季節や空気感、匂いや味さえも観客の記憶や体験からググッと引き出すパワーやセンスのある様子などを言い表すものなのですが、まさに『けいおん』にはこのシズル感が満点なんですね。

 前々回にキエモノ、つまり食べ物の特集をしましたが、単なる“美しい絵”ではなく、このシズル感がとんでもなく見事に表現されてるからこその“美味しそう”な画面になるんですね。

 しかも“食べカス”でさえ、このとおりに見事なほど『美』がある。

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▲クリックでカラー版がポップアップします。見比べてみてください。

 
 もちろんこれは一種の計算から作られる効果でありながら、実はちょっとやそっとの計算などでは簡単にはできないものでもあります。
 ワタシ的に言わせていただければ、アニメーターに“そのもののタマシイ”が降りてきて、描かれたブツに宿らない限り絶対に不可能な必殺技だと思うのですよ。

『トトロ』の場合でそうしたシーンは、夜のバス停でのトトロとの出逢い。雨あがりの草いきれの匂いさえ漂ってくるかのような名シーン。もちろん、こうした技法は新しいものではありません。スタジオ・ゼロ制作による傑作OVA『セロ弾きのゴーシュ』の自然描写はまさにこの技法ですし、『アルプスの少女ハイジ』のチーズがとろけるシーン、もっと古くは『おそ松くん』で小池さんが“ぞぞぞ”とラーメンをすするシーンでさえそうです。

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▲クリックでカラー版がポップアップします。見比べてみてください。

 京アニの場合、背景に風景が加わるとそれは決定的。
 たかがコンビニがこんなに味のある風景に。そしてつむぎちゃんがOPなどでいつも乗ってくる、おなじみ叡山電車の駅舎に至っては、まるで自分があの奥行きの狭いベンチに座っている感触さえ甦ってきます。
 実際に京都の叡山電鉄鞍馬線に乗って、途中の小さな駅で下車したことのある人でなければそれほどではないかもしれませんが。

 ここの駅ね、背中は隙間のないまんまな板ですし、時間帯によっては避けようのない西陽が直で当たるし、夏はもぉ暑くて座ってなどいられんのです。
 それはともかく、たとえどーゆーワケか唯たち軽音部がわざわざ修学旅行で、もうひとつの『京都』へ行くという不思議な設定があろうとも、これほど京都らしい京都を描いた作品が今まであったかどうか。
 個人的には、拙作コンテンツ『おちこちぶらぶらよそ見旅』で紹介してるような、京都のフツーの街歩き感覚こそが京都の空気感だと信じて愛している身としては、かの文学作品『古都』の映画版なんかどれひとつとして『けいおん』の足もとにも及ばないと思うのですよ。

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▲クリックでカラー版がポップアップします。見比べてみてください。

 たぶん上の憂たちが電車を待ってる駅は叡山電鉄鞍馬線・茶山(ちゃやま)駅だと思われますが、あいにく写真を持ってませんので似たような構造の木野駅の写真をご紹介。ちなみに茶山駅の方がうんとこホームが狭いです。

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 閑話休題。

 NHKの『美の壺』じゃありませんが、風情、てのはそう簡単には得られませんし、ましてそうそう描けるようなものではありません。
 しかも寺や神社でもなく、生活に溶け込んだシーンから風情を見つけ出して『ほら。ここにも、美が隠れてますよ…』とていねいに描いてゆくこの作品の高い高いセンスには、ただただ、脱帽するのみです。

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 さきほど『生録』の話をしましたが、みなさんお馴染みのこのジングル画面…あ、もちろんこれはモノクロもヘチャチャもありませんよ。いわば余談。
 今ではアナクロの代表になったカセットテープ、それも私らの世代でも最も安物だったハーフ(カセットの本体部分の事)が不透明な、おそらくは一本¥200くらいのシロモノです。
 さらにテープの巻き乱れ、どこかいびつに回転するリール。こういうコダワリに涙する世代もいるのです。

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 最後に、モノクロ写真の定番である『静物』写真。ほら、モノクロ化するとますます芸術系写真集っぽく見えるでしょ?パンツ(違う!)はかせてもらってる扇風機は変だとしても。

 ほんまに、『けいおん』の魅力はつきません。ほな、また。

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