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2010.02.23

『アバター』その2:画竜点睛を欠いたもったいない内容

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 いい映画です。非常に完成度が高い。しかし、高いがゆえに、画竜点睛を欠いた内容に私は納得がいかない。
 惜しい。ほんとうに惜しい。ここまで作り込めてるのに……と悔しくて仕方ない。
 だから残念ですが『よろ川長TOMのオススメ座CINEMA』では紹介できなかった。
 
 というわけで今回は思いっきり内容に触れています。ネタバレになりますので、鑑賞された方、また内容を知っても構わない方のみ、『つづきを読む』以降をご覧ください。
 

 
Enemy_mine ぶっちゃけてしまえば、観る前は『第5惑星』みたいな話かと思っていました。いがみあい殺しあっている異文化同士の偶然の交流から生まれる新しい世界の話かと。
 
 マイナー作品に分類され、レンタルでもあまり見かけませんので簡単にご説明しますと、地球とドラコンと呼ばれる惑星とは利益がらみですでに数世代にわたる星間戦争を繰り広げてまして、血気盛んな主人公はある日、仲間が止めるのも聞かずに敵を深追いし、共にとある無人惑星に不時着するハメになります。

 最初互いに殺すつもりだった地球人とドラコン人でしたが、一見おだやかそうなその星は実はとんでもなく危険な生き物や自然現象に翻弄される所で、協力しなければとても生きてゆけない。仕方なくそこでのサバイバル生活へと突入します。
 
 言葉はもちろん通じず、まったく異質な生物ふたりが、やがて互いに言葉を覚え、奇妙な友情に結ばれて行く───だけなら普通の話ですが、ここから急転直下、人間の本質を問う物語になってゆくのです。ちなみにコレ、私のベスト10に入る作品でして。


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 しかし『アバター』。フタを開けてみると、むしろ『ソルジャー・ブルー』みたいでした。
 このお話もマイナーですね。あ、『地球へ…』とは無関係ですからね。もっと古い1970年の作品。
 
Soldier_blue これは、アメリカ開拓時代にインディアンに肉親を殺された白人青年と、困っている時インディアンに保護されて以来一緒に暮らしている白人女性が出逢い、愛し合う中で青年のインディアンに対する考え方が変わって行くのですが、折も折、強力な騎兵隊が自分たちを保護してくれたインディアンの部族を皆殺しにすべく総攻撃を仕掛ける。
 これを阻止すべく、非力な彼らは身を挺して闘う決心を固めるものの───というお話。

 昨今のハリウッド映画で感じることは、ハワイやネイティブアメリカン、アイヌ部族やイヌイットなどなど、アジア・ポリネシア系民族の宗教的原点みたいな思想に強く憧れるようなお話作りが多いですね。
 私自身は無宗教主義ですが、万物に魂が宿るという考えには大賛成なので嬉しいことなのですが、そうした考え方は西洋系の宗教学者に言わせれば『原始宗教』なんだそうですよ。

 原始、上等やないか。しかし「神様はひとりしかおらへんねん」なんて言い合いしてるから千年経っても終わらん戦争してる野蛮な奴らがそれを言うのか、みたいなね。

 それはともかく、『アバター』にもそうした“原始宗教”がかなり色濃く出てくるんですが、心ある白人達にはこうした世界観に憧れが強いみたいですね。ナヴィと呼ばれる原住民達の行動パターンや他の生き物の生命をも尊重する宗教観はネイティブアメリカンそのもの。

 音楽が素晴らしい。原住民をイメージしたアフリカ風民族音楽っぽい雰囲気やら、つくりあげた原住民の架空の言語は、特撮邦画のモスラの歌とかをほうふつとさせます。
 この音楽は公式サイトを開けば、B.G.M.としてえんえん聴くことができます。

 しかしもっとオススメしたいのは公式トレイラーサイトにある、『Experience The World of Pandora』という特別な予告編。
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 物語には触れずに、惑星パンドラの観光案内みたいな感じで、美しいCGばかりを堪能できる4分間のQuickTimeムービー。じつはそれを観てても、これで充分。3Dの必要はない、と思ってしまうのですが。

 科学考証は素晴らしいのひと言。さすが、エンタメでありながらも見事なハード系コンセプトSFの数々で名をはせた人です。文句の付けようがありません。本物の21世紀になってしまってる以上、これくらいのレベルでないと、SFとしては成り立たないでしょう。

 しかも今回、さすが理詰めの好きなキャメロンというか、生物学・脳科学的なネットワークだという定義の元に、惑星パンドラの世界観をかなりしっかりと描いている。
 だから当然、パンドラならではの進化論や生態系の裏設定もしっかりあるのでしょうね、実によく考えられたものになってます。
 ただし、ひとつ気になる設定も。しかし、これはたいしたことではないので最後に。

 斬り倒された巨大な樹木は人間が破壊してきた自然の象徴。
 
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 逃げまどうナヴィは白人社会が迫害してきた原住民そのもの。
 世界ごと破壊して利を得ようとする構図は、まさに白人社会が新大陸をはじめとする世界中でやらかしてきたことまんまなんですが、あのエゲツないシーンが自分たちの祖先の姿(日本人の蝦夷・沖縄・朝鮮・中国侵略も含めて)の比喩、痛烈な皮肉だとどれだけの人が感じることか。
 こうした考え方はいろんな意味で今後の映画に哲学的な影響を与えてくれそうで、いいことだと思いますが、果たしてSFに描かれた世界を現実に重ね合わせて反省し、地球の未来や現在をちゃんと考えられるエコノミストがどれほど要るのかは疑問ですが。

 そんな世界観の中で自分たちのしてきたことに怒りを覚え、矛先を転じて地球軍と闘う主人公。仲間たちも勇ましく戦い、傷つき、死んで行く中で、やがて平和を勝ち取って───という筋書きはやむを得ない展開です。

 いわば予定調和なので、それはそれでいいと思います。

 しかし、ひっかかったのは戦いになるまでのプロセス。
 なぜ主人公ジェイク・サリーは地球人と闘う前に、それを避ける努力を地球の兵士側へも働きかけなかったのか、ということ。

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 私はここが納得いかない。

 彼が非力なナヴィの側につくのはいいとして、いわば悪いのは大佐と会社代表の野郎です。ジェイクらはそのことをよく知っている。
 そいつらを説得できないのはともかくも、戦闘の本当の原因や事情を知らない兵士たちに説明・説得する努力もせずに、いきなり撲滅すべき敵に回す考え方っておかしいでしょう。
 中にはあのパイロットのねーちゃんみたいに同調した連中もいたかも知れない。いや、絶対出てくると思うのですよ。人間ですからね。
 もちろんその時は軍人としての使命も誇りもかなぐり捨てるわけです。数多くいるとは思えません。むしろたとえ事情を理解して同情したとしても、ナヴィ側についても勝ち目はないから、という理由で現状維持に回るものの方が圧倒的に多いでしょう。
 
 それでもジェイクたちは説得すべきでした。地球人にも間違いを説くべきでした。
 
 もしかしたら武器を取らないで静観する立場を採ってくれる可能性もある。
 ジェイクはジェイクで、あの憎たらしい大佐に「地球人を裏切る気分はどうだ、ええ?」と問われた時に一瞬表情が曇ったものの、あとはブチ切れるだけ、てのはどういうことでしょうか。
「撃て」と言われて引き金をひくのは軍人の仕事。命令に従わない軍人は軍人じゃなく、味方に殺されても文句は言えない。でもそれが軍人の立場。
 これは今の日本人には理解しろと要っても無理。だって「死ね」と言われて死ぬのが兵士なんですもの。

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 一人さからったねーちゃん、よく軍法会議に掛けられなかったと思います。バレないわけがない。そこで、あれ?なんや、この映画もハリウッド式ご都合主義か?と思ってしまった。
 そのねーちゃんが生き残ったら、ああ、結局味方には弾丸の当たらんご都合主義やもんな、で諦めて自分も誤魔化せられたんですが、しっかり撃たれて死ぬじゃないですか。
 ということはキャメロン監督もそういった部分にはリアリティを求めていると考えられます。
 
 いや、もっとA加減な作り方したエンタメ映画ならこんな細かいことはいいんですが、これだけ作り込んだのに、ツメになる部分で腰が砕けてしまってるのが悔しいんです。
 
 事実、シガニー・ウィーバーも助からなかった。並みの映画なら生き残ってる役柄でしょう。そんなとこはしっかりリアルな展開。

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 だったらなおさら、無残に死んでいった地球の軍人たち、なんのために殺されなきゃならんかったんでしょうかね?まるでニギヤカシ。画面を派手にするための爆竹扱いみたいに思えまして。
 大佐に同調する連中なら無条件にこちらの生存を脅かす敵ですから、戦いとなる結果も止むなしと思いますが、連中はまったく本当の事情を知らずに大佐の命令だけで死んでったわけです。
 生命の樹を切り倒すシーンより、なんかそっちに腹が立ってしまいましてね。哀しくなってしまって。
 
 どうもこの脚本、生命を描きながらも肝心の大切な所がぎくしゃくしているように思えてなりません。
 
 ここまで描けるなら、しかも三時間に及ぶ大作にできるなら、なぜそれを描かなかったのか。
 彼らの儀式を描くシーンの代わりに、たとえ無線でもスピーカーでも、必死に兵士たちを説くシーンがあるべきだった。
 戦いの虚しさ、人間の業の罪深さを描きたかったんとちゃうのん、キャメちゃん?

 それとも単なる娯楽作?もしかしたら本当はそういうシーンがあって、いずれディレクターズ・カットで出てくるの?でも、今は公開版で判断するしかない。

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 もったいない、実にもったいない残念な内容の超大作です。
 アカデミー賞獲るにしても、技術関係のみが妥当だと私は思います。

 ウルトラセブンで、敵に対して必死に退避勧告を続けるモロボシ・ダンを見習って欲しかった。
 
 そうそう、科学考証で気になってた事ですが。

 それは主人公ジェイクが“いつ眠っているのか”という素朴な疑問。
 彼がナヴィとして眠るときに地球人としての肉体に意識が戻るのなら、たとえばナヴィが平均8時間眠るとして、その間に報告や記録を録った上で地球人として本来の睡眠を摂ってたとしたら果たしてどれくらい休めていたのか?
 後半の指導的な立場になってくるとそんな暇ないでしょうし、いわばずっと“完全徹夜”状態が続いている訳です。
 昨年、私自身が67時間無睡眠勤続で体力の限界を味わった実体験からいえば、判断力は鈍り、注意力は散漫で使い物にならない、というのが正直なところ。
 徹夜明けの記事を読んでもらっても分かりますが、ランナーズ・ハイ状態で身体は元気だし眠くはありませんが、むしろ酩酊に近く、かなりラリラリで阿呆でした。
 
 まぁ22世紀ですし軍なのでいい薬があるんでしょうけど、一瞬でも目眩でふらつくとか、過労に対する表現があった方が後半では神懸かりになってしまう(ただでさえ人間の姿してないし)ジェイクの人間味がもっと出て良かったのではないかと。

 まあ、完成品を観て言うが易し、ですけどね……
  
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コメント

TOMさま

前回に続き、きめ細かな評ですね!

私も観たとたん(年末のことで、ずいぶん前ですが)、これは、ネイティヴ・アメリカンと白人の歴史にインスパイアされた話だなとすぐに感じました。アボリジニも含め、最近の映画に、原住民や彼らが大切にしている原始宗教的なポリシーを扱っているものが増えているのは、この全世界的なエコロジーブーム(あえてブームと言います。本質よりも体裁を整えることだけに力を注いでいるだけだから)とも無関係ではないなと思います。今もなお、独自の文化や風習を持つ彼らは、そんなこと当然のように昔から続けてきただけなのにね。

ジェイクはなぜ説得しなかったか? 私が思うに、時間をかけて説得しようというのは東洋的な考え方で、「どうせあいつらにはワカラン!いてまえ!(失礼)闘うしかないやろ!」という結論にすぐ結び付きやすいのが、西洋的な考え方なんではないかな。「汝の隣人を愛せよ」と唱えつつ、異教者を徹底的に弾圧迫害してきたように。で、残念ながら、キャメちゃんも意図的に西洋思想から脱しようとまではいかなかったんじゃないでしょうか。

ジェイクの睡眠時間は、後半のほうで取り繕っていたような記憶がありますが、私も「いつ寝てるんやろ?」という疑問がずっと頭の中にありました(笑)。大きな物語を細部まで整合させるというのは大変でしょうが、やはりそれをやってほしかったというのは同感です。

投稿: 猫式部 | 2010.02.24 09:57

猫式部さん、毎度です!
いやー。クドイだけで。すみません、短くまとめるってのができませんで。
そうか…東洋的な考え方というのが大正解かも知れませんね。
チェスと将棋の差でも言われるように、西洋は敵は敵、東洋こそ昨日の敵は今日の友…の発想ですものね。

うーん。てことは、やっぱりどっちかが滅ぶまで闘うというのが西洋的思想なのか。アホやなあ……。
てことは、ジンギスカンみたいな人しか世界を束ねられないんですかね。
あ。でもローマ帝国も思想までは弾圧しなかったな。誰?悪いのは。

投稿: よろづ屋TOM | 2010.02.24 23:27

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受信: 2010.04.25 19:55

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