『バガボンド31巻』始まって以来の事かも。
今回は妙に発刊が早かった気がします。30巻の時はひたすら今か今かと一日千秋の想いで待ってたような…もちろん、嬉しいサプライズでした。
そして21巻の時のように30巻を越えて表紙のデザインもまたがらりと雰囲気が変わりました。
21巻の時のようにロゴや印刷方式までの変化ではないのですが、表紙から漂う“気”さえも違っているのです。
おかげでいつもの馴染みの書店での店頭に平積みしてあったにもかかわらず綺麗に見逃してしまい、たまたま同日、他の用事で立ち寄ったコンビニで背表紙のタイトルを見つけて驚いたという有様。
内容も表紙の雰囲気を投影してか、これまでの荒々しい怒濤のごとき雰囲気が一転して、物語もどこか穏やかでゆるやかな流れを感じさせる一冊になっています。
あまりにも吉岡一門との三度にわたる対決がものすごかったせいもあって、尚更インターバル的な空気感があるからかも知れません。
しかしそれでもさすが井上雄彦という作家は必ずサプライズをくれるからすごい。
いや、吉川英治の原作にどっぷりハマっている人間ほど驚くんですよ。その大胆にして繊細、アッと驚く見事なアレンジのやり方に。それも単純に奇をてらってやったことではなく、どれもが必然であると確信を持って読めるのがありがたい。
これから読まれる方のためにネタバレを避けますが、31巻のどのエピソードも原作にはない、ということくらいはバラしても許されるでしょう。
実は吉岡一門との死闘で受けた再起不能寸前の大怪我も原作にはないのです。大怪我して高熱にはうなされまくりますが、後遺症にはならない。それどころか下り松の決闘での吉岡一門の人数は30人と原作では半分以下……と相違点は数え上げたらキリがないほど。
なのに、あって当然、それどころか井上版の方こそリアルで道理に合っていて、本来ならこれが本当だろうという気さえしてしまうからバガボンドという作品がいかにしっかりした世界観、人間観の元に描かれているかの証でしょうね。
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そして私が31巻最大の出色と思えるのは、この巻でたぶん初めて、自然に人が死ぬ…という当たり前で大切な光景が描かれていることでしょう。
殺すか殺されるか、殺し、殺され、傷つき、たとえその時は生命長らえてもそれが元で生命を落とす。
葬る者のない骸は置き去りのまま野晒しであり、さらにはカラスや野獣が食い散らして行く光景ばかりがえんえん繰り返されてきた『バガボンド』の舞台となっている世界。
せっかく生まれてきたのに殺し合うために自分を磨き、磨いた自分を相手の刃の前に曝して生命のやりとりに生き甲斐を感じる男たちの生き様と死に様を描き続けてきたこの作品で、寿命が尽きて死んでゆく人の姿は尊くもあり、またむしろ奇妙な新鮮ささえも感じさせます。
原作や原作に沿った武蔵の流れで行けば、あとはもうこれまでのサブキャラたちの“その後”を描きながら同時に小次郎との対決へとイッキに向かってゆくのですが、井上版武蔵はそうはいかないようです。
ご当人の後書きにもちらほらと片鱗が見えるように、あとになればなるほど、境地を拓けば拓くほどに迷いが増えてゆく武蔵───
本当に素晴らしい作品と出逢えて私は幸せです。
実は。プライベートなことでまた今、ガクリとなる事態が周りで起こっている最中で。
不思議なことにそういう時、私はいろんな形で武蔵と再会し、いつも起死回生のためのパワーを貰うのです。だから今回みたいにまったく予期せず新刊に巡り逢えたこと自体がそれを証明しています。
本当に不思議な縁なのです。
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コメント
もしかしてこれって・・・。
講談社がページミスかました奴が入っている卷でしたっけ?
この頃の講談社凄いミスが多かったんですよね・・・。
他の雑誌でもページミス(イニシャルDページミス版買っちゃいました。)やモーニング内でも露骨な誤植とか・・・
投稿: ポニ萌え | 2009.09.08 21:04
ポニ萌えさん…
すみません。なんか話がよく見えませんが…ともかく、そういう主旨の記事ではありません。つい先日出たばかりの巻ですし。
少なくとも、私にとって座右の書、オススメコミックということで。
投稿: よろづ屋TOM | 2009.09.08 23:03
御無沙汰です!
この本は全く読んでいませんが、9/15のNHKのプロフェッショナルに井上雄彦さんが登場するみたいですね。
トップランナーには「時かけ」の細田監督が出るし、やはりNHKは侮れないっ(^^)
投稿: たいむ | 2009.09.10 16:56
たいむさん、おヒサです〜!
あっ。その情報知りませんでした、ありがとうございます!
爆笑問題の番組に浦沢直樹氏が出られるのは知ってたんですけど。
これは早速録画予約しとかないと。ヽ(´∀`*)ノ
投稿: よろづ屋TOM | 2009.09.10 18:03