碧也ぴんく『八犬伝』ゲット
ある日通りかかると、近所にあった唯一の古本屋さんの前に「当店は買い取り業務を終了しました」の張り紙。
古本屋さんといってもイマドキのチェーン展開してるタイプの店だし、できて二年程度なんで実に小ぎれい。だけどイマイチうまくいかなかったんでしょうね。古本屋さんが買い取りをやめるということはすなわち近いうちに店じまいするってこと。
───と、いうことはやがて割引処分をはじめるだろうな───で、ふと思い立ったのが、以前欲しいなと思ってたものの、冊数があるので古本でもケッコーな値段になる漫画のこと。
それがこの碧也(あおまた)ぴんく氏の『八犬伝』。
案の定、すぐに『全品2割引』の張り紙が追加。さっそく、お目当ての本があるかどうかを確認。あらためていくらかかるかを皮算用…小説を数冊購入。その際にいつまでセールをやってるのかも尋ねました。だって、今は2割引でも、ギリギリになれば当然処分で半額とかそれ以下にもなりうるわけですし。
でも正直、気分はハイエナかハゲタカでどうもうしろめたい。反面、ちょっとでも安い方が助かる…
結局それから二週間後、半額になったのを見計らって買いましたけどね。
この作品はタイトル通り、あの滝沢馬琴の『南総里見八犬伝』のコミック化作品です。しかも、これほど各キャラクターをきちんと掘り下げ、また丁寧に描いた八犬伝はありません。
メジャー誌での連載ではなかったため発行部数もさして多くなく、私がこれを知ったのも以前同僚だった女の子から1・2巻をプレゼントされたのがきっかけ。だけど、続刊を手に入れようにもよほど大きな書店でないと扱ってなかったこともあった上に、その後職を失った私は漫画どころではなくなって。
だからその古本屋さんで見つけたときは、ようやく出逢えた…って思いました。
実は私、八犬伝フリーク。といっても、もちろん原作の方。若き日の真田氏主演の角川の映画は無関係。もともとはNHK人形劇『新・八犬伝』を中学の頃観て(もう34年も前!)その存在を知ったわけですが、実は成人後にちゃんと読んだ南総里見八犬伝という作品は、原作の滝沢馬琴が28年もの時間を掛けて完結した作品であると同時に、けして若い頃に書いたわけではないこと、間がずいぶん空いたりしたこと、また途中失明してからは筆記を息子の嫁さんが代行したなどもあって、結構矛盾点やら重複、または欠損もあるために、イッキに読破すると首をかしげてしまう部分もあるのです。
とはいえ、八犬伝のモチーフはのちの『七人の侍』『サイボーグ009』に繋がる、集団主人公ものの元祖。(『七人の侍』は運命論や超常現象とは無関係ですが、誰が主人公というわけではないという意味で。)逆に遡ると中国の『水滸伝』になるわけです。
水滸伝は108人なので多すぎるんですが、実は水滸伝も『西遊記』『封神演義』と共に中国の三代伝奇小説でありながら、尻切れトンボなんですよ。ちゃんと終われていない。あ。西遊記も中途半端か。
一所懸命読んでいって、膨らむだけ膨らませておいて「えっっ。お、終わりッスか!?これで!?」て感じ。八犬伝も水滸伝も、なんせ大昔の作品だけに続刊どころか現実を受け入れるしかないわけで。
そのせいもあって、NHKの新・八犬伝も、1990年からいわくつきでOVA化された『THE八犬伝』も、どうにも尻切れトンボなんですよ。つまりファンを納得させてくれるほどには収集がついてない。だから、オリジナルとして新たな作り手が結末をひねり出すしかない。それだけにこの碧也ぴんく版の八犬伝にいわば“最後の期待”をかけていたわけです。
今回入手できたのは、3巻から11巻なんですが、あらためて調べてみると15巻で完結しているらしい。ということは残り4巻を手に入れないといけないわけで。ヤフオクを見ると、まるごと全巻てのはあるけど、そんなばら売りはないから、今後は他の街の古本屋さんを探すハメに…。
ちなみに原作は講談。つまり───
♪ぱぱん、ぱんぱん。誰が、何して、何とやら。そこで誰それ、ハッタと気づき、返す刀でざん、ばらり…てな具合の文体なので、黙読するより音読するほうが読みやすいと言う変わり種。
また、碧也ぴんく氏は、近未来版八犬伝といえる『ブラインド・ゲーム』も執筆。これ、アニメ化しないかなあ。すごいんですよ、キャラも話も描写も。八犬伝が妖怪魑魅魍魎がらみの伝奇なら、これは立派なハードSFコミック。
碧也氏のものすごいところは、どんな男性作家も描かないような残酷なシーンも必要とあらば描けること。さっきまで微笑んでいた綺麗なヒトが次の瞬間、敵の手によって無惨な肉塊の死体にされてしまう───などという目を覆いたくなる、信じたくないようなシーンも出てくるんです。(つい先だって終了したアニメ『Persona〜ペルソナ〜トリニティ・ソウル』もそうです)
これは賛否両論あるかも知れませんが、人の死は綺麗じゃない。こうした戦いを軸に置いた作品では、死ねば誰しもが生ゴミになるという事実をもっときちんと描くべきだと私は考えています。
そのほうが人の生をあざやかに浮き彫りにできる。生きることの意味を強く訴えられる。
最後になりましたが、八犬伝といえば不思議な珠、牡丹のアザと仁義礼智忠信孝悌。私の本名にはこのうち『智』が入っているのがすごく嬉しかった。亡き父親には『孝』の字があったので、のちに長男にも同じ字を入れたんです。じつは、それほど八犬伝は私にとって影響力が大きいんです。
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