『ひだまりスケッチ』とんでもない映像表現の宝庫。
いえね、原作は今風な四コマ漫画なんです。美術系高校に通う四人の女子学生の寮的アパート生活をコアにして、彼女たちのほにほにーっとした日常を淡々と描いた作品なんです。
たしかにお話そのものはほのぼのとしたハートフルな作品なんですが、別にアクションがあるでナシ、劇的な持って行き方をしているでなし。
そんなわけなので、アニメ化するにあたってはやり方によっては単にサザエさんみたいな素朴で簡単なアニメでも構わないわけです。
と こ ろ が 。
悪い言い方をすれば、その単純で済むはずの作品を、これでもかこれでもかと、とんでもなくムダにものすごいアニメートされた作品として生まれ変わっているところが素晴らしい。
いえ、ほんとにすごいんです。ナニゲに観てたらもったいない。
いや、まるでアニメにおける表現と技術の実験作品みたい。
まるで、技法のカタログというか教科書でも見ているような気になってきます。
普通の感覚では、アニメを制作するのにどれだけ枚数を描き、どれだけ枚数を節約すればナンボの採算が取れるかってことで戦々恐々なはずなんです。だってアニメだろうがビジネスですから。儲からなかったら関係者全員、失業ですから。
そんな話は、かのジブリのオマケ的実験アニメ『ギブリーズ』にも出てくるまでもなく常識的で生々しい話ですが、まあこの『ひだまりスケッチ』そして今夏に続編として放送が始まった『ひだまりスケッチ365』、とにかくそんなこと全く頓着してないのかと思うほど膨大な作画の洪水。
小津安二郎的カット割りやら、実相寺昭雄的構図がガンガン出てくる。アクションシーンでは黒澤明の『七人の侍』で登場したような被りの技法も多用されたり。
あ、アクションシーンといっても、遅刻しそうだからと学校へ突っ走るとか、そういう程度なんですけど、それを逆手にとってものすごく大げさな演出で見せてくれるからそれだけでかえって笑えてしまうんですね。
さらにはデジタル技術をフル活用しての合成、実写応用、活字のグラフィック表現等々、現代アートのエッセンスもいっぱい盛り込まれて。
マトリックス的回り込み撮影(撮影といってもアニメだからひとコマずつ描いているわけですが)やら、無限遠からマクロマティックな超アップへの変化などのめまぐるしいまでの演出には、ほんま、よおやるなあ…と感心するばかり。
前作に当たる『ひだまりスケッチ』もそうですが、このテンションで1クール続けてしまうスタッフの根性と気力には頭が下がります。
だって、手を抜こうと思えばいくらでも抜けるんですよ。
たしかにイマドキは評論家だらけで、ちょっとでも作画がぶれただけでサモ自分が美術鑑定家ででもあるかのように偉そうにヤイヤイ文句を書き連ね、頑張ったら頑張ったで、やりすぎだ、みたいな言われ方をする時代ではありますが、そんなことはどこ吹く風で我が道をゆく姿勢が素晴らしい。
さらに嬉しいのは、前作『ひだまりスケッチ』ではイマイチ空回りしていた笑いの部分が今回すごくグレードアップしていて、笑いにウルサイ私でさえかなり笑わせて貰ったこと。
主人公で天然ボケの“ゆの”をとりまく変わり者の住人たちの、その変わり方が自然でいいのです。とってつけたような変さでなく、どこにでもいそうなんですよね。
しかもみんな温かい。斜めに見てしまえば、そんなイイコちゃんばっかりぢゃないぞ、という意見もあるでしょうが、リアリズムを追求しているわけでなくて、人のふれあいの温かさをゆっくりと見せていこうというお話なので、これでいいのです。
しかしこうした作品を観ていると、ほんとにジャパニメーションは他国のアニメとは次元が違いますね。
フランスや韓国が国を挙げてアニメ制作者養成にどれほどチカラを入れようとも、絶対に追随を許さない。というか、無理。
だって、日本のアニメーターは欲得でアニメなんて創ってないもの。お金、出世、名誉。どれも無縁に近い。逆に言えば、M系でないとつとまらない仕事ですよ。
かつて徳川家康率いる三河武士団がなぜ強いだけでなく、300年にわたる政権を保てたかというと、貧しく厳しい条件だったからこそ強く結束し、心から忠誠を誓えたのだといいます。
哀しいかな、職人系の日本人労働者ってそういうところがあるみたい。
伝統工芸といい、もーちっと日本もこうした職人たちを社会的に優遇しようという考えはないんですかねえ。
いや、その手の話はともかく。
一昔前なら考えられなかったような、こーゆー地味地味でナチュラル系ほのぼの系のお話で1クール作ってしまえるなんて、ほんとにアニメにとって良い時代になったなあって思います。
この手のエッセイみたいなアニメなんてのも、アニメ文化が熟成している日本ならではでしょうね。ありがたや、ありがたや。
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コメント
いや~この作品マジで凄いですよ!
前作の時も、月刊であのページ数の4コマどうやってアニメ化するんだと謎に思いましたね!
でも中々どうして面白く仕上がっていますね~!
宮子の冷蔵庫の中身だけ実写とか笑いました!
間を持たせるための演出もなかなかうまい。
さりげなく作者も声やってるし・・・。
個人的には、この教師がたたかれる時期に吉野家先生の様なはっちゃけた先生が出てるのにびっくりです!
昔はたくさんいましたよねあ~言う生徒か教師かわからないような変わり者の先生!
投稿: ポニ萌え | 2008.07.31 00:34
全然知らないけど。
観る価値ありってことで了解しました(笑)!
絵が可愛いのは良い。
投稿: さくら | 2008.07.31 13:55
ポニ萌えさんっ、毎度っっ!
嬉しいなあ〜、やっぱわかってらっしゃいますね〜。まさに“同人”の繋がりってヤツ?
この作品、『ぱにぽに』や『絶望先生』と同じ線上のPOPさですが、画面レイアウトの関係でしょうか、この『ひだまりスケッチ』が一番デザインセンスがぶっとんでて、実験作っぽいですよね。
フツーならB.G.M.が入るところにあえて入れなかったり、ひとつひとつの効果音までが存在感がある。
たとえチラ出とはいえ、作者が声やってるなんて、ヒッチコック以来の快挙ですよね。先生といえば、個人的にはチョーさん演じる校長がたまりません。
投稿: よろづ屋TOM | 2008.08.01 00:17
さくらさん、こーゆーネタにも来てくださるとすんげー嬉しいです。
ハマるアニメもたしかにあるけど、BGVとして流しッパなアニメも今はたくさんあるんですよ。
で、たまに画面をみるとすごく癒されるの。気がつくと録画してて、いつのまにかリピートで観るようになってる。
絵も可愛いけど、キャラそのものもキュートですよ。お話も可愛いんだな。これが。
ぜひご覧くださいね〜〜〜〜〜〜〜
投稿: よろづ屋TOM | 2008.08.01 00:19