『地球へ…』のころの昔話。
今を去ること30年前の1977年。朝日ソノラマ刊の少年誌『マンガ少年』に3年半にわたって連載され、東映によって映画化もなされた未来SFコミックの名作が、今回あらたにテレビシリーズとして制作されたわけです。
経緯など細かいことは毎度お馴染みウィキペディアのほうがウントコ詳しいのでそちらをご覧頂くとしますが、考えてみればすごいことで、私なんかの世代が若者の頃───まさにこの『地球へ…』が連載されていた頃ですよ───から30年前、自分が生まれるずっと前───戦後まもなくの1947年でマンガなんて想像もつきません。調べてみたら手塚治虫先生でさえ新人デビューの年です。
30年前なんて。いかに昔なのか、今の若い人はどう感じてるんだろう、って思います。
そもそも、『地球』と書いて『テラ』とふりがなを振って無理矢理読ませたのは萩尾望都、竹宮恵子の両先生ら当時最先端の少女漫画家たちではなかったでしょうか。
今と違って、当時のマンガは少年と少女にキレイに分かれてまして、女の子はともかくも男子が少女マンガなんて読んでることがバレると影で何を言われるか、なんてことさえあったんです。(もっとも、女兄弟の居た奴は隠れて読んでいた形跡はありますが)
だから少女マンガを読まなかった我々フツーの男子が『テラ』なんて呼び方を知ったのはずいぶん遅れてのこと。もしかしたらこの作品が連載されてはじめて知った、なんて連中も多かったはず。
私は何でもかんでも奥手で、子供の頃はあまりマンガは読まず、目覚めたのは高校の時。で、以後人生も狂って?しまって。
1976年にマンガ少年が刊行され、手塚治虫の『火の鳥』や松本零士の『ミライザー・バン』だの、若手でも石坂啓、ますむらひろし(アタゴオル物語)、高橋洋介(ヨウスケの奇妙な世界)だの、とにかくとんでもない個性派作家陣の中で77年、竹宮恵子の『地球へ…』が始まったのです。
奇しくも76年は白泉社の『LaLa』刊行と同じ年。
まだ男子が少女誌を読むこと自体抵抗のある時代、私は『花とゆめ』『LaLa』『別冊マーガレット(伊賀のカバ丸連載中)』『別冊少女コミック(スターレッド連載中)』『りぼん』を定期購読してました。
月刊誌ばかりなのは私の予算の関係。で、さらに友人の妹君から読み終えた『なかよし』と『週間マーガレット(エースをねらえ連載中)』『別冊少女フレンド(はいからさんが通る連載中)』を貰っておりました。
だけど少年誌は皆目興味なし。当時の少年誌作品は下品で低俗なのが多く、幼い頃から映画マニアと化していた私には耐えられないほど幼稚だったのですが、逆に少女マンガはシナリオ、構成、画力、アイデアのすべてが黄金期のハリウッド映画に匹敵するハイグレードだったのです。
ところがマンガ少年だけは違った。
実は今なお、数冊を持っているほどに、雑誌でありながらすみずみまでくり返し読んでも飽きない内容とグレードだったんですね。
竹宮恵子という作家、一応少女誌からデビューされてはいるものの、その作品はどれも今でいえば実にハイブリッドな内容で、性別的スタンスはむしろ今のジャパニメーションにかなり近いと思います。つまり、男子が観てもダイナミックな迫力があり、女子が観てもしっかり情緒面が描かれている。
彼女の作品の魅力のひとつが少年。まさに“やおい”の元祖でもある『風と木の詩』もそうですが、とにかく無垢で夢見がちで、たしかにカッコイイし可愛かったりもする。でもしっかり不潔で野蛮な“男の子”がちゃあんと描かれている。
この『地球へ…』の主人公、ジョミー・マーキス・シンという少年も、原作ではそうした彼女ならではの危なっかしくて情緒不安定な少年として描かれています。
それが話を追うごとに、危なっかしさは大胆な行動力と決断力へ、情緒不安定は柔軟な思考へと変化し、一歩一歩オトナへ脱皮をしてゆく描きかたが素晴らしい。
それは少女を花に例えるに似て、少年もいつまでも少年のままではいられないという一抹の寂しさを伴うジレンマでもあり、親が子の巣立ちを見守るような気分にもさせてくれるわけで。
今回、一話は今後の指針となる重要なキーポイントがいっぱい出てくるのですが、放送を観てすでに時代による考え方の相違などが汲み取れて実に興味深いのです。
原作では徹底した管理社会の結果として、一般市民はみな情緒が安定───悪く言えば無感動で感情がどこか欠如しているように描かれています。子供はみな人工子宮による誕生で、父母はコンピューターが選んだ養父母で、養育は国民の義務以上のものではない。
対して、ジョミーのように新人類になりうる因子を持った者はみな多感で好奇心旺盛。つまり人間くさい。
だから“目覚めの日”と呼ばれる、育て親から自立する14歳の誕生日を前にして「ママは寂しくないの?」と訊かれた母親の目には、それが異常な行動として映り、むしろ彼女は畏怖の念さえ覚えます。
これが今回アニメでは、先のセリフでは堰を切ったように涙ぐみ、その夜に抜き打ち精神検査のためにジョミーがシャワールームで逮捕され運び出されるときにも、せめて服を着させてやってくれと係員にくってかかる。ちゃんと子供に愛情を持った母親として描かれていました。

私が“原作付き”と呼ばれるような、数種の異なるメディアで作られた作品を評価する場合は《そのメディアに於いて優れた作品か否か》を判断基準にするようにしていますが、この対照的な演出の違いに、今回のアニメリメイクされた意義とオリジナリティを見出したい。
30年前にSF系で管理社会といえば連想するのは感情と個性の抑圧または消失というのが一種の常識。現実世界でも東西冷戦のまっただ中で、朝鮮半島でスパイだと疑われただけで処刑される場合もあった時代。
そんな中、スパイと洗脳はセットみたいなもので、“洗脳”という単語は“放射能”という言葉と同じくらい意味を理解してないにもかかわらず漠然と恐怖をもたらせたのです。
余談ですが、ジョミーが抜き打ち精神検査でかけられるカゴ状の機械はSF人形劇『ジョー90』で主人公が超知識を得るために使う装置“ビッグラット”そのままなのは、私らの世代へ向けて「コレ、知ってる?」というメッセージであり、オマージュなんでしょうね。
このアタラクシアという徹底した管理社会を某国のような“思想洗脳”された社会と描かず、それを良かれと信じているからこそ、保守側に廻っているのだという作り手の解釈の一端だとすれば…
映画は原作とは大きく異なるアレンジを加えられましたが、管理社会の描写や対立勢力がもたらす独特の世界観は近かったように思います。
毎度の事ながら、偉大な原作をもつリメイク作品はさまざまな意見をもたらすでしょうね。
ただ、30年もの時を経ているぶん、映画版公開の頃ほどにはショックが少ないでしょうか…
差別、偏見、和合、対立───人類が抱える永遠の課題。
そしてこの物語の発端であり、原因は人類の母なる地球への冒涜と虐待の結果。
今こそ語るべきすべての問題を包括した作品だけに、今後を見守りたい作品です。

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コメント
よろづ屋TOMさん、こんにちは~!
我が家も「地球へ・・」世代なんで、ニュースを聞いたとき、同じく「ぶったまげました」ヨ(笑)。
特にうちのだんなは「テラへ」といえば「ジョミー・マーキス・シン」と早口言葉のごとく返せるぐらい(笑)なんですが、今さらなぜリメイクなのかねえ、今だからこそなのかもねえと言いながら、楽しみにしていました。
と、いっても私はまだ観てませんが、
今度ゆっくり録画を楽しみたいと思います~
投稿: ねこでこ | 2007.04.08 11:20
マンガ少年!読んでました!
アタゴオルや火の鳥、葉介の不思議な世界・・・
もうリアルタイムであんなスゴイ漫画を読めたなんて、本当に幸せな時代に生きていたなぁ
思い出しても興奮します!
地球へ・・・
第1話から読んでました。
すごくスリリングでショッキングでした。
でも、今回のアニメ版の育ての母親がジョニーに対して見せる愛情表現は・・・・
ん~~~・・・どうかなぁ~~~???
原作に対して思い入れが多すぎる者にとっては賛否が分かれるでしょうね^^;
高橋葉介の不思議な世界
については、実は、ブログで書きたい~~~!!!
と思うようなことがいろいろあるんですよ。
でも、TOMさんのように思いをしっかりと文章で表現できず・・・
まだまだ書けないですorz
投稿: ビタミン店長 | 2007.04.09 00:24
始まりましたねぇ~♪
土曜日は留守にしてたので、バッチリ録画予約しました。
できれば、このまま全話を永久保存版として録画しちゃおっかな~なんてことも考えております。
オリジナル原作に触れたのはもうずいぶんと昔のことで、内容もかなり忘却しちゃってるものですから、リメイク云々は忘れて新鮮なスタンスで楽しんじゃおうと思ってます♪
投稿: 小夏 | 2007.04.09 09:18
ねこでこさん、毎度です!
おお!やはり同じ世代にはコレ、ビビッと反応しますよね。
正直、竹宮さんの絵は今も全然古くないアニメ絵なのでキャラクターの絵はちょっと引きましたが、新たなアプローチのための差別化だし、このレベルならば…と静観することにしました。
さてさて、ねこでこさんのお眼鏡に適いますかどうか…?
投稿: よろ川長TOM | 2007.04.09 10:09
店長さん、毎度です!
そーですか、葉介さんお好きでしたか!初期の毒のある作品が好きで、『ライアー教授の〜』までのコミックスを大事に持っています。
最近観たCLAMPの『ホリック』って結構シニカルだと思ってたけど、高橋葉介の世界をうんとソフトにしたらああなるような気もします。
私も原作が大好きですので、東映の劇場版にはギャップを感じました。とはいえ、二時間でまとめるならあれも仕方ないと思うし、実は原作での母親の反応にむしろ疑問をおぼえていたので(義務感だけで母親がつとまるとは思えないし、共存している他者に対して人間は愛情をもてずにいられるものでしょうか?)今回のことを岐路に、まったく異なるアプローチにして欲しいんです。
だって、ミュウに限らず、いずれ登場するキースといい、血のつながりはなくても親子兄弟的な愛情のない孤独な社会なんて造れるとは思いにくい…まあ、だからこそテラズのコンピューターが人類の母親代わりになっているという設定ですが…
このネタ、また書かせていただきます。
投稿: よろ川長TOM | 2007.04.09 10:24
小夏さん、毎度です。
ずいぶん昔…そらもお、私みたいにリアルタイム経験だったら30年ッスから。えらいことです。
けど、何度も何度も読み返している私はけっこう台詞まで記憶してたりして。
あ、わたしもハナっから永久保存モードでフォルダ分けしております。
その期待に添って欲しいものですが…憧れの竹宮先生の色紙ほしさにプレゼントに応募してしまいましたよ。
ただしアンケートには「テラズに限らず、精神攻撃のシーンはもっと悪夢のような、不条理かつホントに気が変になりそうな表現をすべきだ」と書きましたが。
21世紀なんですから、1968年の『2001年宇宙の旅』の映像表現に負けてドースル。
投稿: よろ川長TOM | 2007.04.09 10:30
あたしはこれ、参加出来ません、、
この前、「もう1人いる」という題名見て飛びついたのですが、、、
全然違う、都市伝説ホラーでした、、、
投稿: 猫姫少佐現品限り | 2007.04.09 21:41
姫少佐、毎度です。
参加できませんとか書きつつ、しっかり参加されてますやん。(´- ▽ -` )
≫この前、「もう1人いる」という題名見て飛びついたのですが、、、
何それ!( ̄ロ ̄lll) うう〜む、そんなの見つけてくるのは少佐だけですよ。
そういえば萩尾先生の『11人いる!』って、納得できた作品としてできたのはなかったなあ…
投稿: よろづ屋TOM | 2007.04.09 23:16
TOMさん、毎度です~♪
いやー、観た!観た!ようやっと昨晩観ましたよ。
思っていたほど×じゃなかったッス。最初、キャラデザ見たときは、
一抹の不安が過ぎらないでもなかったのだけど、初回としては
まずまず宜しいのではないでしょうか。
いい具合に中身を忘れてるってのも時にはいいもんですね。(笑)
TBさせていただきまーす。
投稿: 小夏 | 2007.04.10 21:02
よろづ屋TOMさん
トラバ、ありがとうございます。
正直なところ劇場版の「地球へ・・・」しか知らないのですが、妙に印象に残っていました。
今は内容も忘れかけてしまっている「スラン」(A・E・ヴァン・ヴォークト著)を読んだ直後だったこともあり、ジョミーは印象に残りました。
私も「別マ」だけですがずっと読んでました。理由はTOMさんと全く同じ理由でしたね。でも、自分が少女マンガを読んでいるとは友人に言えなかったですねw
投稿: てふ | 2007.04.10 23:26
小夏さんも仲間じゃ〜〜〜〜。
いや、ぶっちゃけた話キャラデザインはなかなか馴染めません。
私みたいにイマドキのアニメ観まくってるオッサンでもこれは濃いです。
私も中身忘れてましたが、あとの記事のために本を取り出し、表紙を見た途端にいろんな記憶が戻って…(まるで寺沢武一のコブラっすよ。)
ゑゑ〜〜?この通りに物語を進めるのか〜〜?( ̄ロ ̄lll)
まあ、『デスノート』や『コードギアス・反逆のルルーシュ』が受け入れられる時代ですから、アリかなあ。期待しよう。
投稿: よろづ屋TOM | 2007.04.11 01:04
てふさん、トラバ返しにコメントまでありがとうございます!
おお、『スラン』はこういうお話を考えるとき必須ですよね。私もたった一回しか読んでないのに妙にいつも思い出します。
(ノ´∀`*) うはは、やはり“隠れ少女マンガファン野郎”でしたか。
でも私はカミングアウトした上に、こっ恥ずかしい恋愛もの描いて別マ、花ゆめに投稿しまくりましたよ。もー、なんも怖くなかったです。
投稿: よろづ屋TOM | 2007.04.11 01:07
ご無沙汰してます、どうも。
「地球へ・・」のアニメ放映開始は
私もびっくりでした。
とはいうものの、絵が違いすぎる~って
出鼻をくじかれて見てません(オイ)
そうですか、微妙にニュアンスが変わってるわけですね。
そのへんに何で今やるのかっていう意味があるわけですか・・。
映画を見に行ってからコミック文庫になった原作を
買ったくちなのでメインの印象は映画だったりします。
私は第2世代なのかも・・?(笑)
投稿: Ageha | 2007.04.27 16:23
おお!第二世代のAgehaさん、ご無沙汰です。
正直、竹宮さんの絵はアニメにしやすい筈なんですが、あえて“今風”にしてるようですし、ほかにも色々と妙な気負いというか、どうも『土6』という時間帯は、平成ガンダム復活を成功させ、エイベックスがらみが強力に後押ししてるなどもあって、今のアニメにとっては珍しく非常にめんどくさいスポンサーを抱えたデッドゾーンのように思えます。
ファンや視聴者よりもスポンサーの視線が熱いってのは、いずれ仮面ライダーやウルトラマンのように雪隠詰めの憂き目に遭うのではないかという気がしてるんですが。
ああ…オトナの事情ってイヤですねえ。
投稿: よろづ屋TOM | 2007.04.29 04:21